法人が工場や営業所の土地を賃貸するときは、それなりの額の保証金を払います。そして賃貸契約書は毎年更新します。
それをどうせ今年も同じことが書いてあるだけだろうと思って、中身を読まずに署名と押印をする……。
そんなことしちゃダメですよ!
地主さんとは人間どうしの長いつき合いだから、と思ってしまうと、ビジネス契約なのに緊張感がなくなりがちです。地主さんだって、自分の実入りがいちばん大事です。
契約書の更新は「信用とつき合い」ではダメなんです。
契約書の内容が、シレっと変わっていた。
今年の契約書。
契約代理人として、なにやらの不動産コンサルティング会社から郵送されてきました。地主さんは近所に住んでいて、いつも持参して手渡しだったのに。
そして送り状には「契約書に署名押印のうえ、ご返送ください。」とだけ。
とはいえ、こちらもお人よしではありません。去年の契約書と読みくらべます。
すると、退去するときに返金される保証金500万円のところが「敷引き150万円・退去時に保証金350万円を返金」と書き換えられているではないですか!
すぐに地主さんの家へ行きました。
社長と揚田「これなんですか?話が違いますけど。敷引きの契約をした覚えはないですよ。」
地主さん「今年からコンサルティング会社に全部まかせていて、わたしは何も知らん(と答えておきなさい、と言われている)から。」と、じつに歯切れの悪いお返事。
そうですか。それならそのコンサルティング会社、ちょっと出てこい!
ビジネスでは、読まずに署名するほうが悪い。
コンサル担当さん「敷引き30%くらいは常識ですから。」
社長・揚田「常識がどうとかじゃなくて、契約では保証金だけだったんですよ。それを『署名して返送してください。』だけですか?」
コンサル担当さん「口頭で説明する義務はないことでしたから。」
たしかに法律上の「重要事項」ではないので、口頭での説明義務はないです。(法律論は割愛します)
だからと言って返信用封筒をつけて郵送してきただけとは。お人よしに署名させて、地主さんから成功報酬をもらう段取りだったのでしょうか。
社長にしてみれば、ずっといいお付き合いをしていた地主さんから、不意打ちを食らったような気持ちです。ちゃんと相場に見合うだけの賃料を払ってきましたし、滞納したことも無かったのに。お歳暮お中元までしていたんですよ。
じゃあ、引っ越しますか?社長。
本音は、ここで営業を続けていきたい。
会社にとってちょうどよい立地条件なので、ここで長く営業していきたいんです。経営判断としては引っ越す理由がありません。
もし万が一にも「文句があるなら、次の契約で出ていってくれ。」と言われたら困ります。
保証金は地主にあずけているだけのお金です。退去したら返金されるので、払ったときも経費になりません。
しかし銀行にあずけるお金とは違って引き出せません。ここで営業する限り、無いも同然のお金です。一部でも返金してもらえないものかと、こちらも考えていいたところでした。
敷引きは返金されませんが経費になるので、法人税を減らせるメリットがあります。
コンサル担当さんにしたって、ゼロ回答では帰れないでしょう。
ならば、あとは駆け引きです。「損して得をとる」ための落としどころを探っていきます。もちろん最初は、かなり有利な落としどころを投げてみます。
揚田「敷引きは1割、50万円なら応じましょう。そして保証金の残り450万円を返金してくれませんか?」
敷引き50万円で法人減税&返金450万円なら、事実上、いままでよりも良い条件になります。
災い転じて福となす(福となしてやる)作戦スタートです。
コンサル担当さん「……保証金の返金については、地主さんに打診してみますが、敷引きは3割でお願いします。」
歩み寄れる交渉(大人のケンカ)なら100%勝利を求めてもダメ。
まあさすがに「敷引き3割を1割にしろ!残り450万円もいますぐ返せ!」と言ったところで飲んでくれませんよね。
(もし飲んだら、コンサル担当さんこそがお人よし)
だからまずは強めにぶち込んでおいて、少しずつ歩み寄ります。100%勝利にこだわったら交渉が進みません。なんといっても引っ越したくないんですよ、こっちは。万が一にも、この交渉が決裂したら困るんです。
そこで「敷引き2割100万円&残り400万円を一括で返金。」を勝利ラインとしました。
いよいよ佳境です。
揚田「じゃあ敷引き15%、75万円ならいかがですか?」
コンサル担当さん「それでは残りのご返金は約束できませんよ。」
揚田「汚染物質をあつかう会社じゃないから、退去したときの土地のよごれも少ないはずです。長年にわたって支払いを滞納したこともないし、高額な保証金をおさえておく理由は、もうないでしょ?」
コンサル担当さん「では敷引きが2割100万円でしたら、残り400万円を一括返金するように地主さんを説得しましょう。」
揚田「2割ですか。うーん、まあ400万円の一括返金なら……、分かりました。それでお願いします。」(キター!!!)