月給やボーナスから天引きされた所得税を12月に精算する年末調整。
住宅ローンや生命保険による減税もあるので、税金が戻ってくる人が多いですが、たまに追納する人もいます。
扶養家族が変わったとき
月給から天引きする所得税は、その月の扶養家族の人数による仮計算。正しい所得税は12月31日の扶養家族の人数によります。
よって年内に扶養家族の人数が変わると、年末調整の誤差も大きくなります。
子供が生まれて扶養家族が増えたのなら、年末調整で返ってくる金額が増えるので、とくにトラブルにはなりません。
しかし扶養家族が減ったら大変。よくあるパターンは、子どもがアルバイトをやり過ぎて年収103万円を超えたときです。
これで深刻だったのが、山田さん（仮名）。
じつは離婚しました。
揚田 「山田さん、年末調整の書類がまだですよ。はやく出してくださいね。扶養家族は奥さんと子供３人のままですか？」
山田さん 「いや実は……、２月に離婚しまして。」
揚田「２月って。なんで黙ってたんですか？ちなみにお子さんの扶養は、山田さんのままですか？」
山田さん 「いえ、（元）妻が子どもの親権をもって、実家に帰りました。いま子供の扶養は、たぶん（元）妻の父です。」
うわ～、えらいこっちゃ。給料の計算しなおし、年末調整の計算しなおし。けっこうな悪夢ですよ……。
扶養家族が４人も消えた！
揚田 「じゃあ、いまは扶養家族ゼロですか？奥さんとお子さんの健康保険証はどうしました？」
山田さん「元妻の父の健康保険に入ったようで、元妻と子どもの健康保険証は預かったままです。すいません。」
揚田 「じゃあ保険証は使われていないんですね。それは良かったです。しかし家族手当は扶養家族への手当ですから、３月分からは返金してもらいます。ほかの社員と不公平ですから。配偶者は月１万円、ほかの扶養家族はひとり５千円。山田さんは、１か月あたり ２万５千円でした。３月から１１月までの９ヶ月で、２２万５千円の返金です。
あと、所得税と住民税の計算もやりなおしです。けっこう増えますよ。」
山田さん「そんなあ…。わたしは養育費を払っていますから、その分ということにしてもらえないんでしょうか？」
揚田「扶養家族ではない人への手当ではないんです。
『子どもの年収が103万円を超えたから扶養家族ではなくなったけど、生活費は親が払っている』というご家庭は、けっこうあるんです。家族手当をもらえるとすれば、元・妻のお父様がその勤め先から、ですよ。」
山田さん「わかりました。でも一度には払うのはキツイです……。（泣き顔）」
年末調整ならでは、の追い打ち。
揚田「あと所得税の年末調整ですけどね。11月までは、扶養家族２人※として計算していましたので、４万円ほど追納になりますよ。」
※なぜ扶養家族が２人なのか？元妻は専業主婦でしたので、まず１人。子どものうち、一人目の子は１６才でしたので、もう１人。
下の子ども２人は、子ども手当をもらっている年齢なので、そのかわりに世帯主の減税がない。よって税金を計算するときの扶養家族の人数は２人です。
山田さん 「あれって１～２万円くらい戻ってくるんですよね？」
揚田「はい。本来なら戻ってくるパターンが多いですが、12月の扶養家族の人数で決まりますからゼロ人ですよね？」
山田さん「そんなあ・・・。あれもこれも払ったら12月の給料どうなるんですかあ？これで養育費も払ったらもうマイナスですよお。なんで働いたうえに、お金を払わんとあかんのですかぁ？」
（山田さん、まじで泣き崩れる）
来月からの給料もガタ減り
しかたないので、いったん会社が立て替えて、分割で返すことになりました。
揚田「毎月いくらならいけそうですか？」
山田さん「来月からの手取り額って、どうなるんですか？」
揚田「家族手当の２万５千円がなくなって、所得税の天引きは３千円ほど増えます。来年６月からの住民税も６千円ほど増えますので、手取りは３万４千円ほど減ります。子ども手当はあちら（元妻）がもらうんでしょうね？」
山田さん「はい。それで養育費を払って会社に何万円も払ったら、私の手元にはいくらも残りませんよー。」
揚田「いや、会社に『払う』んじゃなくて、もらい過ぎていた分を『返す』んですけどね……。いまさら言っても手遅れですが、お子さんの親権は元・奥様が持つとしても、扶養家族は山田さんのままでも良かったんですよ。」
山田さん「離婚の話をしていると、はやく身軽になりたかったし、それに将来、再婚するかも知れないって考えると、子どもの扶養からも外れる方が気楽かなって。養育費は払っていくんですけどね。」
通勤手当やら労災保険やらも
揚田「住宅ローンを組んでいなくて良かったですね。売るにしても、ひとりで住み続けるにしても、中途半端にお金がかかるところでしたよ。」
山田さん「そうですね。実家は遠いので１DKアパートに引っ越しました。最寄り駅はおなじです。」
揚田 「じゃあ、住所変更届も出してくださいね…。最寄り駅がおなじなら、通勤手当はこのままでいいです。ただし通勤中に事故が起きたら、本来の通勤ルートから見てどうなのか、が問題になります。労災保険金が出るかどうかは大違いですから、いまの通勤ルートを届け出てくださいね。」
社長のはからいで、毎月１万円ずつの分割返済にしてもらえました。
年末調整には、たまにこういった悲しい話がやってきます。